誤嚥防止のすべてもっと知ろう!安心・安全な食卓のために【栄養士・保育園向け】

保育園やご家庭での食事は、子どもたちの心身の成長にとってかけがえのない時間です。しかし、時に誤嚥(ごえん)事故という悲しい出来事も耳にします。誤嚥は子どもだけでなく高齢者にとっても大きなリスクとなります。すべての子どもたち、そして家族が安心して、おいしく食事ができるよう、私たち大人全員が誤嚥防止に努めることが非常に重要です。

この記事では、誤嚥とは何か、どのような食材がリスクを高めるのか、そして調理や食事中の工夫、万が一の際の対応まで、詳しく解説します。

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1. 誤嚥(ごえん)とは?

誤嚥(ごえん)気管に入ってしまうことを指します。これにより、窒息や誤嚥性肺炎の原因となる場合があります。

食べ物を**噛み砕くこと(咀嚼:そしゃく)や、噛み砕かれた食べ物を飲み込むこと(嚥下:えんげ)**の機能が未発達な乳幼児や、加齢により機能が衰えた高齢者にとっては特に注意が必要です。

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2. 誤嚥のリスクが高い食材と注意点

どのような食材が誤嚥のリスクを高めるのかを把握しておくことが大切です。特に以下の特徴を持つ食材は注意が必要です。

1. 弾力性があり、まとまりにくいもの 🌀

こんにゃく、しらたき、練り物(ちくわなど):噛み切りにくく、弾むような食感があります。

わかめなどの海藻類:ペラペラで歯ですべりやすく、噛み切りにくい特性があります。

2. 丸くて小さいもの 🍒

ミニトマト、ぶどう、さくらんぼ、うずらの卵、乾いた豆類(節分豆など):これらはそのまま飲み込んでしまうと気道を塞ぐ危険性があります。

3. 粘着性が高く、口の中でばらけやすいもの 🍚

お餅や白玉団子:粘着性があり、口の中で唾液と混ざるとさらにまとまりやすくなります。

ご飯やパン類、ふかし芋、焼き芋、カステラ:唾液を吸収しやすく、口の中でばらけて飲み込みにくいことがあります。

すりおろしたりんご:塊が残ったり水分と繊維が分離して塊になる可能性があります。

鶏ひき肉のそぼろ:パサつきやすく口の中でまとまりにくいため、誤嚥のリスクが高まることがあります。

4. 固いもの・繊維の多いもの 🥕

イカやタコ、ごぼう、れんこん、きのこ類:子どもには噛み切りにくい食材です。

鶏肉の皮:噛み切りにくい場合があります。

5. 生食を避けるべきもの 🍎

りんごや柿:乳幼児期(完了期まで)は生食を避け、加熱して提供しましょう。

生魚(刺身など):3歳頃までは避け、しっかり加熱します。

卵の生食(生卵):細菌感染のリスクがあるため、避け、加熱して提供しましょう。

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3. 安全な調理と提供の工夫

リスクのある食材も、調理の工夫で安全に提供できるようになります。

1. カットの仕方でリスク軽減 🔪

ミニトマト:原則として他の食材に代替しますが、やむを得ない場合は必ず4等分以下にカットします。

うずらの卵:誤嚥防止のため、4つ割りにします。可能な限り他の食材に代替することが望ましいです。

こんにゃく・しらたき:弾力があるため、1cmに切るか、板こんにゃくは糸こんにゃくに代替します。

きのこ類:繊維を断つように細かくカットします。えのき、しめじ、まいたけは1cmに、エリンギは繊維に逆らって1cmに切ります。

わかめ:ペラペラで噛み切りにくいため、細かく(1〜1.5cm)切るのが基本です。

ソーセージ・ウインナー縦半分に切ってから使用します。丸い形を避ける切り方を工夫しましょう。

葉物野菜(ほうれん草、小松菜など):繊維を断ち切るように縦・横・ななめに細かく切ると噛みやすくなります。

肉・魚:1〜2歳児には3等分、3〜5歳児には半分に切るのが目安です。豚肉は噛み切りにくいため、1〜2cm大に切ります。鶏肉の皮は、1〜2歳児には取り除くか、皮なしのものを使用すると良いでしょう。

    ◦ 鮭は3~5歳児には切り身の半分、1~2歳児には1/3のサイズにカットし、骨は事前に抜いておくと安全です。

焼き海苔、刻み海苔刻みのりを使用し、大きな海苔は避けます。

スパゲティ・パスタ・麺類:茹でる前に3等分に折ってから茹でると食べやすくなります。

油揚げ:弾力があるため、細切りや短冊切りにすると口の中で処理しやすくなります。

春雨3cm長さに切ると良いでしょう。きゅうりも春雨サラダでは千切りにした後、半分の長さに切ることが推奨されます。

じゃがいも:煮崩れしにくいメークインを使用し、厚めのいちょう切りにします。1~2歳児や小規模保育園のお子様には、大きめの角切りでも良いとされています。

ごぼう、れんこん:噛み応えがあるため、柔らかめに調理することが推奨されます。れんこんは薄切りにします。

豆腐:ミートローフや麻婆豆腐で木綿豆腐を使用する場合、煮崩れしにくいよう角切りにし、下茹でして水分を抜きます。

2. 調理方法の工夫で食べやすく ✨

野菜をよく炒める・煮込む 🔥:野菜を長く加熱することで、水分が抜けて甘みや旨味が濃縮され、辛みや苦みが軽減されます。子どもがフォークで刺せるくらいやわらかく炒めるのが目安です。玉ねぎは辛味を飛ばすため、飴色になるまでじっくり炒めることが重要です。

だしを使う 🍵:煮物や味噌汁は水ではなく「だし汁」を基本に調理しましょう。子どもの好む味覚であり、薄味でも満足感を与えます。

甘みや旨味のある食材と組み合わせる 🌽🐟:コーン缶、ツナ缶、かつお節・ごまなどと組み合わせることで、野菜の苦みや青臭さを和らげ、食べやすくします。

炒めてから煮る 🥕🥬:野菜の栄養素の吸収率がアップし、風味も増します。

和え物は加熱して水分を絞る 🥗:生野菜は必ず加熱して柔らかく、殺菌してから提供します。水分をしっかり絞ることで、味が水っぽくならず、調味料がよく絡みます。

ごまは炒る・する 🌱:香ばしさが増し、カルシウムや鉄などの栄養素の吸収率も高まります。

酢は加熱して酸味を飛ばす 🍋:子どもは酸味に敏感なため、酢を加熱して酸味をやわらげると食べやすくなります。

鶏ひき肉のそぼろ:豚ひき肉と半々に混ぜるか、片栗粉などでとろみをつけ、口の中でまとまりやすくする工夫が有効です。

ご飯、パン類、ふかし芋、焼き芋、カステラ:水分が少ないため、水分を一緒に摂るよう促し、一度にたくさん詰め込みすぎないよう注意します。

煮魚:味をしっかりしみ込ませ、柔らかく煮込むと良いでしょう。煮崩れしやすい魚は、小麦粉をまぶして焼いてから煮汁に入れると、身が締まるのを防ぎ、ふんわり柔らかく仕上がり、煮崩れも防止できます。

ゆで卵:細かく砕き、他の食材と混ぜて提供します。卵焼きは牛乳や出汁を加えることでふんわりと柔らかく仕上がります。

肉の柔らかさ確保:鶏肉のさっぱり煮では、小麦粉をまぶしてオーブンまたはトースターで焼いてから煮込むことで、ふわっと柔らかく、旨味が閉じ込められた仕上がりになります。豚肉のマーマレード焼きでは、小麦粉とマーマレードジャムを揉み込むことでお肉が柔らかくなります。

パサつき対策:魚には溶かしバターをかけたり、煮魚は煮汁をかけたりすることで潤いを増し、口の中でまとまりやすくします。ツナ缶は水煮タイプより油漬けタイプの方がパサつきを抑えられるためおすすめです。ハンバーグやメンチカツでは、パン粉やスキムミルク、豆腐、マヨネーズなどを加えることで、しっとりふわふわに仕上がります。煮物も煮汁を少し残して上からかけることで、口の中でまとまりやすくなります。

3. 食材のまとまりやすさ

片栗粉の使用:チンジャオロースや麻婆豆腐では、水溶き片栗粉でとろみをつけることで、口の中でまとまりやすくします。

ペースト状にする:卵サンドの卵黄や人参の紅葉ペーストは、ペースト状にすることでクリーミーで口に馴染みやすくなります。

4. 徹底した下処理 🚿

土のついた部分をよく洗う:根菜や葉物の根元などは土が残りやすく、それが土臭さの原因になることがあります。ほうれん草や長ねぎは特に丁寧に洗いましょう。

骨・皮を取り除く:魚の骨は誤嚥の大きな原因になります。鶏肉の皮も小さなお子さんには噛み切りにくい場合があります。

皮をむく:人参など皮が固い野菜は、お子さんが噛み切りにくい場合があるので、皮をむくのがおすすめです。

5. 調理後のほぐし

• 豚肉のごまてり焼きやマーマレード焼きなど、塊で焼き上がったお肉は、提供前に手でほぐして子供が噛み切りやすくします。特に1〜3歳児のお子様には、ハサミでさらに細かくカットするなどの配慮が必要です。

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4. 食べさせ方のポイント

調理だけでなく、食事中の環境や配慮も誤嚥防止につながります。

1. 子どもの発達段階に合わせる 👶👧

• 食材の大きさや硬さ、とろみなどは、子どもの咀嚼能力や嚥下能力に合わせて調整します。

• 1〜2歳児には深皿に盛り付けると、スプーンですくいやすくなります。

2. 集中できる環境づくり 🏡

• 食事中はテレビを消し、おもちゃを片付けるなど、食べることに集中できる環境を整えましょう。

• 椅子や机の高さも、足がしっかり床につき、ひざが90度に曲がるよう調整します。

• 歩きながらや遊びながらの「ながら食べ」は避けましょう。

3. 保護者との連携 🤝

• 園で誤嚥リスクを避けるために提供していない食材(ミニトマト、ぶどうなど)については、保護者にも情報提供し、家庭での食事やお弁当の際にも注意を促しましょう。

• 遠足など子どものテンションが上がる時は、特に注意が必要です。

4. 一口量を少なく、無理強いしない

• 一度に口に入れる量を少なくし、しっかり噛んでから飲み込むように促しましょう。

• お子さんが食事を嫌がる場合、無理に食べさせるのは逆効果になることがあります。

• 嫌いな野菜があっても、大人がおいしそうに食べている姿を見せることは重要です。

• お子さんの食べる量や好みはそれぞれ違います。その子のペースに合わせて、無理なく食事を進めることが大切です。

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5. 高齢者の誤嚥防止について

高齢者の場合も、加齢による味覚の変化や嚥下機能の低下により、誤嚥のリスクは高まります。

味覚の変化:年齢を重ねると味覚が鈍くなることがあります。味の濃いものを好む傾向がありますが、これは塩分過多につながるため注意が必要です。

食べやすい工夫:飲み込みやすいように、とろみをつけたり、ゼリー状にしたりする工夫も有効です。

病院食の活用:病院食の献立は、栄養計算や塩分制限がしっかり考えられているため、家庭での減塩食や介護食の参考になることがあります。

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6. 緊急時の対応

万が一の事態に備え、緊急時の対応を知っておくことも重要です。

1. 乳児の場合 👶

• 片手で乳児の顎を持ち、頭と顎を保護します。頭を下げて、背中の真ん中を手のひらの付け根で5回強く叩きます(背部叩打法)

• それでも異物が除去できない場合は、指2本で両乳頭を結ぶ線の少し足側の胸骨下半分を5回圧迫します(胸部圧迫法)。

2. 幼児の場合 👦

• 体を支え、頭をなるべく下向きにします。肩甲骨と肩甲骨の中間を手のひらの下半分で数回強く叩きます(背部叩打法)

• それでも異物が除去できない場合は、腹部に腕を回し、一本の手で握りこぶしを作り、親指側を子どものへそより少し上に当て、上方に圧迫するように突き上げます(腹部突き上げ法)

腹部突き上げ法を行った場合は、内臓を痛めている可能性があるため、救急隊に必ず伝えましょう

3. マニュアルの整備 📝

• 緊急時にどのように対応するか、あらかじめマニュアルを整備し、職員全員で共有・訓練しておくことが大切です。

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7. 保育園での取り組みと食育

保育園では、誤嚥防止のために様々な工夫がされています。

未食表(みしょくひょう):初めて食べる食材がないか、家庭で事前に確認してもらうためのチェックリストを導入している園もあります。アレルギー対策としても重要です。

衛生管理:手洗いや食材の管理など、厳しい衛生基準が設けられています。

食育活動:食材に触れる体験を通じて、食への興味を引き出す食育活動も行われます。ピーマンのスタンプ遊びや野菜洗いなど、五感を使いながら食材を学ぶことで、苦手意識の克服にもつながります。

視覚優位のサポート:言語発達に遅れがあるお子さんには、言葉だけでなく、絵や写真などの視覚的な情報を使って食事のステップを伝えることで、混乱なく食事ができるようサポートします。

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まとめ

誤嚥防止は、日々の献立作成から調理、提供、そして緊急時の対応まで、多岐にわたる配慮と小さな工夫の積み重ねです。栄養士・保育士・保護者の皆さんが連携を密にし、子どもたちが安心しておいしく食事ができる環境をこれからも一緒に作っていきましょう。

食事は毎日のことなので、無理なく、楽しく続けていくことが一番です。もし心配なことがあれば、専門家にご相談ください。

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用語集

誤嚥(ごえん):食べ物や飲み物が、誤って食道ではなく気管に入ってしまうこと。窒息や誤嚥性肺炎の原因となる場合があります。

咀嚼(そしゃく):食べ物を歯で噛み砕くこと。

嚥下(えんげ):噛み砕かれた食べ物を飲み込むこと。

未食表(みしょくひょう):保育園などで、お子さんが家庭で食べたことのない食材をリストアップし、園で初めて提供する前に家庭で試してもらうことを確認する書類。アレルギーや誤嚥のリスク管理のために利用されます。

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