〜給食室が実践する調理の工夫〜
「あおいの給食室のレシピは子どもがよく食べます」と言っていただけることも多いのですが、実はその裏には「子どもが食べる方程式」があります。
ただ単に食塩を控えた「薄味」にするだけでは、子どもにとっては味気なくなり、食が進みにくくなってしまいます。
大切なのは、素材の持ち味を引き出す調理法です。
この章では、私が実践している「子どもが食べやすくなる調理の工夫」を、具体的な食材別のポイントとともにご紹介します。
ここをあまり気にしていない方も多いですが、実はここが一番味に差が出るポイントなんです。
同じレシピでも、野菜を炒める時間が少し違うだけで味はガラッと変わります。「味が薄いな」と思ったら、まずは炒める時間を見直してみてくださいね。
👉 目安:子どもが力を入れずにフォークで刺せるやわらかさ!
※鍋の大きさやコンロ(ガス/IH)によって加熱時間は変わります。
❓ショ糖(スクロース)ってなに?
・ショ糖 = 「グルコース(ブドウ糖)」+「フルクトース(果糖)」がくっついた二糖類 👉 甘い糖が 2つ結合 した形で存在している
🔥 加熱で何が起きる?
・野菜に含まれる酵素や加熱の作用により… ショ糖が分解されて、グルコース+フルクトースに分かれる 👉 この現象を「転化糖化」と呼ぶ
🍭 なぜ甘みが強まるの?
・グルコース:ショ糖と同じくらいの甘さ
・フルクトース:ショ糖の約1.7倍の甘さ ✨
➡️ ショ糖が分かれることで 👉 「より甘い」と感じやすくなる!
🧅 実例⌇玉ねぎの加熱 ˊ˗
・生玉ねぎ → 「硫化アリル」で辛い 😖
・炒めると → 硫化アリルが揮発し辛味ダウン ⬇️
・さらに → ショ糖が分解 → 甘い単糖が増える 🍯
👉 だから 「玉ねぎは炒めると甘くなる」のです🎉
カレーやチャーハンを作るとき、あえて鍋底やフライパンに茶色い焦げ目を残すようにしています。あれはただの焦げではなく、野菜や肉から出た糖やアミノ酸が凝縮した旨味のかたまりです。ここに少量の水やだし汁を加えて鍋底をこそげ取る方法を、フランス料理では「デグラッセ」と呼びます。
👉 炒める工程が入る料理は、基本的にこの方法を取り入れるのが良いです。調味料が薄くてもおいしくなるコツです。
野菜をしっかり炒めると甘味・旨味が増し、苦味がやわらぐ。
さらに「鍋底の旨味(デグラッセ)」まで活かせば、薄味でも満足できる味わいになります。
ほうれん草や小松菜などの葉物を子どもが嫌がる理由は、大きく分けて「嚙み切れない」と「苦い」の2つです。
👉 対策:葉の部分は縦・横・ななめに小さくカットする。口に入ったときにスッと噛み切れるサイズにする。
👉 対策:下茹でして水にさらすことでシュウ酸が流出。苦味が減り、食べやすくなる。栄養面でもカルシウム吸収阻害を軽減できる。
シュウ酸は、植物が自分を守るために作る成分のひとつ。野菜の中でも、ほうれん草・タケノコ・サツマイモの皮・ココア・紅茶などに多く含まれます。
🥬 苦味・えぐ味の正体
口の中で結晶が刺激 → えぐみや渋み、舌がザラつく感じにつながる。
🦴 栄養面への影響
腸内で「シュウ酸カルシウム」という形になり体に吸収されにくくなる → カルシウムの吸収率が下がる。子どもの骨や歯の成長にとってマイナス。
📺 レンジ加熱 vs 茹でる(シュウ酸の減り方)
・茹でる+水さらし→ 50〜70%減少
・レンジ加熱+水さらし → 10〜25%減少
💡 実践ポイント
1️⃣下茹で+水さらし
2️⃣カルシウム食品と合わせる(チーズ・牛乳・しらす等)
3️⃣冷凍ほうれん草の活用
🤔 どれくらい気をつけたらいい?
日常的にカルシウムを摂っていれば、過度に神経質になる必要はありません。「食べ方の量・頻度・子どもの栄養状態」に応じて使い分ければ十分✨
葉物は「小さく切る+アク抜き」の2ステップで、噛みやすく苦味も減り、子どもがぐっと食べやすくなります。
子どもが「おいしい」と感じやすい味は、調味料の濃さではなく、うま味の工夫にあります。特にだし汁を使うかどうかが、大きなポイントです。
1️⃣ 旨味で「苦味・青臭さ」をやわらげる
だしの旨味成分には、苦味やえぐ味を打ち消す(マスキング効果)がある。
2️⃣ 甘味を引き立てる
旨味は甘味と相性がいい→相乗効果で強調される。野菜本来の甘さが引き出される。
3️⃣ 「コク」と「香り」で満足感アップ
だしの香りで風味が豊かになり、薄味でも満足できる。研究でも、だしを使った料理は塩分30%カットでも“おいしい”と評価✨。
🍵基本の「かつお昆布だし」の取り方(幼児1人分)
・水:120ml / 昆布:1.2g / かつお節:1.2g
👉 ワンポイント: 昆布は火にかける前に30分以上水に浸しておくと、うま味がさらに多く抽出されます。
だしを使うだけで「子どもが好む味」になり、薄味でも満足感が出る。
毎日の味噌汁・煮物こそ、だし汁を基本にしましょう。
子ども向けの料理は基本的に薄味。
そのため、野菜そのものの苦味や青臭さを強く感じてしまうことがあります。
👉 そんな時は「甘味・風味・うま味」を持つ食材と組み合わせるのがコツです。
🌽コーン缶(甘味でマスキング)
甘味が強く、ピーマンやほうれん草などの苦味・えぐ味をマイルドにする。
🐟ツナ缶(油脂+核酸系うま味)
油分でコクが出て青臭さを感じにくくする。イノシン酸(うま味)を含み、たんぱく質も補える。
✨かつお節・ごま(香りと相乗効果)
かつお節はイノシン酸が豊富。ごまは香ばしい香りで青臭さをカバーし、栄養面でもプラス。
DNAなど細胞の設計図の材料(=核酸)が、食材の中で分解されると → うま味成分に変わります。イノシン酸(かつお節・肉等)やグアニル酸(きのこ等)が代表的。グルタミン酸と組み合わせるとうま味が 7〜8倍にパワーアップ!します。
ポイントは「苦味や青臭さは“足して消す”」。調味料に頼らず、自然な食材の力で食べやすさを引き出せます。
「炒めてから煮る」ひと手間で、風味も栄養吸収もアップします。
にんじん🥕(βカロテン)
βカロテンなどの脂溶性ビタミンは、油と一緒に調理すると吸収率が2〜3倍ほどUP。
じゃがいも🥔(ビタミンC・カリウム)
煮物にそのまま入れるとビタミンCが水に流出しやすいが、炒めてから煮ると油膜で守られ流出が減少。
🔥炒めることで得られるプラス効果
油が具材をコーティングし、うま味を閉じ込める。ごま油などを使うと香りが広がり食べやすい仕上がりに。
「炒めてから煮る」は、1️⃣栄養を逃さず摂れる, 2️⃣風味アップ, 3️⃣仕上がりもきれい、と三拍子そろった万能テクです👍
野菜を子どもが嫌う理由のひとつに、「土臭さ」があります。においに敏感な子どもにとって、これはすぐに「食べにくさ」につながります。
🥬ほうれん草の洗い方
ボウルに水を張り、根元を手で擦りながらふり洗いする。水を替え、葉も洗う。
🌿長ねぎの洗い方
葉鞘(筒状の部分)の中に土が入り込んでいることがあるため、気になる場合は縦に切り込みを入れて中まで洗う。
根元や葉の付け根に土が残りやすいので、丁寧に洗うことが大切。しっかり下処理をすることで土臭さが軽減され、子どもも食べやすくなります。
子どもはまだ咀嚼力(噛む力)が未発達。安全に食べやすくするためには、薄く・細かく切ることが基本です。
きのこに含まれるエルゴステロールは、紫外線を浴びるとビタミンD₂に変わります。買ってきた生しいたけも、30分ほど太陽に当てるだけでビタミンDが増えることが報告されています☀️。人の皮膚も紫外線を浴びるとビタミンD₃がつくられます。どちらも骨づくりや免疫力アップに役立ちます。
「噛み切りにくい食材=薄く・細かく」が子どもの安全と食べやすさの鉄則です。
和食の基本調味料は「さしすせそ」の順に加えるのが鉄則。幼児食では特に重要です。
「さしすせそ」の順に調味すると、食材がやわらかく・味がしみやすく・香りも生きるので、幼児食にぴったりの仕上がりになります。
保育園給食で出す和え物は、生のままではなく必ず加熱してから提供するのが基本です。
💡 加熱後のひと手間が大事!
しっかり水分を絞ることで、味がぼやけず、少量の調味料でも味が決まります。
ほうれん草のビタミンCは、茹で時間2分で栄養素と食べやすさのバランスが◎(残存率:約50〜60%)。2分以内+すぐ冷ますを意識すると栄養素も守れます。
和え物は「加熱で安全&やわらかく → 水分を絞って味をまとめる」が鉄則。このひと手間で食べやすさもおいしさも大きく変わります。
ごまは「炒る」「する」ひと手間を加えることで香り・コクが強まり、栄養素の吸収率も高まります。
ごまは香り・コク・栄養を兼ね備えた優秀食材。「炒る」「する」の工夫で、薄味ごはんをぐっとおいしく、栄養価も高められます。
子どもは本能的に「酸っぱい=腐っている」と感じやすいため、酢の物を嫌がる子も。ポイントは酢を加熱して酸味をやわらげることです。
酢の酸味は消化を助け食欲を増進させる効果があります。また、主成分の「酢酸」は体内でクエン酸に変わり、エネルギー効率をアップさせ疲労回復をサポートします。
酢は加熱することで、まろやかな味に仕上げられます。
特に子どもが食べにくい野菜のポイントです。
ほうれん草🌱:必ず下ゆでしてアク抜き。水気をしっかり切る。
根菜類(ごぼう・れんこん)🥕:だし汁でコトコト煮てやわらかくする。
ブロッコリー🥦:加熱後は自然に冷まし、水っぽさを防ぐ。
なす🍆:しま目に皮をむくと口当たりがやわらかくなる。
かぼちゃ🎃:完全に潰さず、形を少し残してホクホク感を出す。
ピーマン🫑:しっかり炒めて苦味を和らげる。
トマト🍅:湯剥きして皮を除くと食べやすい。
どの野菜も「噛みやすさ・えぐみや苦味の軽減・水分調整」がカギ。子どもの咀嚼力や味覚に合わせて、ひと工夫することでぐんと食べやすくなります。
野菜を「食べにくい」から「おいしい」に変えるのは、実は“味つけ”よりも調理の工夫がポイントです。
こうした一手間を意識するだけで、子どもが思わずおかわりしたくなるような、満足感のある給食や家庭料理にぐっと近づきます。