動画のまとめ
このZoom会議は、保育園の栄養士とエプロン会員の栄養士プラン限定のライブイベントとして開催されました。今回は、誤嚥のリスクをなるべく下げるための調理方法の確認がテーマでした。
開催の背景と目的
- 最近、保育園での誤嚥事故のニュースが頻繁に耳に入るようになったことがきっかけです。
- 特に、2024年5月には、すりおろした生のりんごを食べた生後7ヶ月の女の子が亡くなった事故や、8ヶ月の男の子が意識不明の重体となった事故が報告されました。後者の事故では、男の子が泣いて息を吸った瞬間にりんごが気道を塞いだ可能性が高いとされています。
- これらの事故の背景には、保育園が国のガイドラインに沿った離乳食の提供を行っていなかったという指摘があったため、改めてガイドラインを把握し、確認する必要があると考えられました。
- ガイドラインの知識を持つこと、そしてそれを保育園全体で共有することが重要であり、給食室から積極的に働きかけるべきだと強調されました。
確認された主要なガイドラインとリスクを下げるための対策 今回の会議では、「教育・保育施設における事故防止及び事故発生の対応のためのガイドライン」が主に参照されました。特に、食事に関連する部分に焦点が当てられました。
- 危険な食材の特性とサイズ:
- 弾力があるもの、滑らかな球状のもの、粘着性が高いもの、硬いもの、唾液を吸収するもの、口の中でバラバラになりやすいものなどが危険とされます。
- 丸いものは直径4.5cm以下、丸くないものは直径3.8cm以下のものが危険とされていますが、1cm程度の小さいものでも注意が必要です。
- 具体的な食材と調理・提供方法の工夫:
- すりおろしりんご: すりおろしても塊が残ったり、水分が分離して繊維が塊になったりする可能性があるため、安全とは言い切れません。乳幼児期(完了期まで)は加熱して提供するか、果物自体を提供しない方が良いとされています。
- ミニトマト: 必ず4等分以下にカットする必要がありますが、保育園では他のものに代替することが推奨され、会議の参加者からは大きいトマトに切り替えたという例も挙げられました。お弁当に持参する保護者にも注意喚起が必要です。
- 乾いたナッツ・豆類(節分豆など): 消費者庁からも警告が出されており、節分では袋ごと投げる、疑似の豆を使用するなどの対策が取られています。
- うずらの卵: カットしてもリスクがあるため、提供を中止する保育園が増えています。
- 飴類・ラムネ・個包装チーズ: 保育園ではほとんど提供されませんが、ラムネなどは唾液で溶けるタイプでも注意が必要です。
- ぶどう・さくらんぼ: 皮が口に残るため危険。ぶどうも提供されなくなってきています。
- 餅・白玉団子: 粘着性が高く、唾液と混ざるとさらに粘着性が増すため、噛む前に誤嚥する危険が高いです。多くの保育園で提供を中止しています。
- いか・えび・かに類: いかは硬くて噛み切れにくいため、提供しない方が良いでしょう。えび・かに類は0-1歳児クラスではつぶすなど、調理を工夫するか、提供を避けるべきとされます。
- 焼きのり・刻みのり: 焼きのりは噛み切れにくいため、刻みのりを使用することが推奨されます。
- こんにゃく・しらたき: 1cmに切る。こんにゃくは全て糸こんにゃくにするのが良い。
- ソーセージ: 縦半分に切って使用する。
- きのこ類(えのき、しめじ、舞茸、エリンギ): 1cmに切る(エリンギは繊維に逆らって切る)。
- 水菜・わかめ: 水菜は1cm〜1.5cmに切る、わかめは細かく切る。
- 鶏挽肉のそぼろ: バラバラになりやすいため、豚挽肉と半々に混ぜるか、片栗粉でとろみをつけることが推奨されます。会議中には実際に鶏そぼろにとろみをつける実験が行われ、水分を足して片栗粉を加えることでまとまりが出ることが確認されましたが、適切なとろみ加減(例えば片栗粉2.5%では不十分な場合がある)は園で試しながら見つけるべきとされました。
- ゆで卵: 細かくして何かと混ぜて使用する。
- 煮魚: 味を染み込ませて柔らかく、しっかり煮込む。
- ごはん・パン類・ふかし芋・焼き芋・カステラ: 粘着性が高く唾液を吸収し飲み込みにくいため、水分を摂って喉を潤してから食べること、詰め込みすぎないことが重要であり、保育士への共有が特に必要です。
連携と情報共有の重要性
- 保育士と栄養士、そして保護者との連携が非常に重要です。
- 保育園で使用していない危険な食材(プチトマト、カップゼリー、ぶどうなど)については、家庭にも伝え、家庭での注意も促すべきです。
- 遠足時のお弁当など、特別な日の食事についても、保護者へ配慮を呼びかけることが重要です。
- 事故発生時のマニュアルがない保育園もあるため、緊急時の対応マニュアルを整備することが強く推奨されました。乳幼児の窒息時の応急処置(背部叩打法、胸部突き上げ法など)についても確認しておく必要があります。
結論 ガイドラインを献立に落とし込み、保育園の実情に合わせて継続的に改善していくことが不可欠です。ガイドラインは全てが細かいところまで決められているわけではないため、園内で実際に調理を試したり、保育士と共有しながらマニュアルを作成したりすることが大切です。情報が自動的に送られてこない市町村や施設もあるため、栄養士自身が積極的に情報を収集し、学び続ける必要があります。
もっと深く学びたい方のために
1. 誤嚥リスクの高い食品とその対策
このセクションでは、誤嚥事故につながる可能性のある食品と、それらの安全な提供方法について深く掘り下げます。
- 丸くて小さいもの:
- ミニトマト: 4等分以下にカットして提供することが推奨されますが、可能な限り他の大きなトマトなどで代替することが最も安全です。園外での食事(遠足など)でも保護者への注意喚起が重要です。
- ぶどう、さくらんぼ: 皮も口に残るため、誤嚥のリスクがあります。保育園での提供は避けることが推奨されます。
- うずらの卵: カットして提供する場合でもリスクは残るため、提供を避ける園が増えています。
- ラムネなどの飴類: 唾液で溶けるタイプでも誤嚥の可能性を考慮し、提供を避けることが望ましいです。特に遠足などの非日常的な場面では、子どものテンションが上がり、より危険性が高まります。
- 魚肉ソーセージ: 縦半分に切って提供する。
- 乾燥した固いもの、バラバラになりやすいもの:
- ナッツ類、豆類(節分豆など): 消費者庁からも警告が出されており、節分での使用は避けるか、袋ごと投げる、疑似の豆を使用するなど、誤嚥を防ぐ工夫が必要です。床に散らばったものを誤って口にするリスクも考慮します。
- 高野豆腐、麩: 唾液を吸収し飲み込みにくくなるため、水分を十分に与えてから食べる、または他の食材と混ぜて提供するなどの工夫が必要です。
- 弾力があるもの、粘着性が高いもの:
- 餅、白玉団子: 噛み切れずにそのまま気道に入る危険性があり、唾液と混ざると粘着性が高まります。提供は避けるか、細かくカットし、は切れの良い調理法(小麦粉やほうれん草、豆腐を混ぜるなど)を検討し、3歳以上の子どもに限定するなど、年齢に応じた配慮が求められます。
- いか: 硬くて噛み切れにくく、小さく切って加熱するとさらに硬くなることがあります。保育園での提供は避けることが推奨されます。
- えび、かに類: 0-1歳児クラスでは潰して提供、1-2歳児クラスでは刻むなど、年齢に応じた調理が必要です。調理の難易度から、保育園では提供を避けるケースもあります。
- とろみがないもの、水分を吸収しやすいもの:
- すりおろしりんご: すりおろしても塊が残ることがあり、とろみがなく水分だけが分離することで、繊維が塊となって気道を塞ぐ可能性があります。乳児期には加熱して提供することが推奨されます。
- ご飯、パン類、ふかし芋、焼き芋、カステラ: 粘着性が高く唾液を吸収しやすいため、水分を十分に与え、少量ずつ食べるよう指導することが重要です。
- 鶏ひき肉のそぼろ: そのままだとバラけやすく誤嚥のリスクがあるため、豚ひき肉との配合を半分にするか、片栗粉でとろみをつけてまとまりやすくするなどの工夫が必要です。
- 噛み切りにくい食材:
- おにぎりの焼きのり、刻みのり: 刻みのりを使用するなど、噛み切りやすい形状にする。
- えのき、しめじ、舞茸: 1cmに切る。
- エリンギ: 繊維に逆らって1cmに切る。
- わかめ: 細かく切る。
- こんにゃく、しらたき: 1cmに切る。こんにゃくは全て糸こんにゃくを使用する。
2. ガイドラインの重要性と活用
このセクションでは、ガイドラインの役割と、それを日々の業務にどのように落とし込むべきかについて学びます。
- 「教育・保育施設における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」:
- 誤嚥防止だけでなく、トイレや定保育室など、保育園における様々な事故防止策について網羅されています。
- 栄養士や保育士は、このガイドラインを熟読し、内容を完全に把握することが求められます。
- 特に食事に関する部分は、0歳児、1-2歳児、3-4-5歳児に分けて具体的な食べさせ方や調理方法が記載されており、保育士と共有し実践することが不可欠です。
- ガイドラインの記載は一般的なため、具体的な調理方法(例:片栗粉の濃度など)は、実際に試作し、園内で共有・検証することで、より安全なマニュアルを作成することが重要です。
- 園内での共有と連携:
- 栄養士は、ガイドラインの内容を給食室だけでなく、保育士、看護師、園長など、全職員と共有し、共通認識を持つことが重要です。
- 食事の提供は保育士が行うため、調理担当者と保育士の連携が不可欠です。
- 園によっては、園長先生が多忙で専門外の領域にまで手が回らないこともあるため、給食室から積極的に提案し、働きかける必要があります。
- 事故防止マニュアルが策定されていない園もあるため、ガイドラインに基づき、緊急時の対応マニュアルを整備することが推奨されます。
- 家庭との連携:
- 保護者に対し、保育園での誤嚥防止対策(例:ミニトマトを使用しない、加熱調理の徹底など)を伝え、家庭でも同様の注意を促すことが重要です。
- 特に遠足など、家庭からお弁当を持参する機会には、誤嚥リスクの高い食品を避けるよう具体的に呼びかける必要があります。
- 保護者向けのクラスだよりや給食だよりを通じて、情報提供を定期的に行うことが望ましいです。
3. 緊急時の対応
誤嚥事故が発生した場合の、迅速かつ適切な対応について確認します。
- 乳児の場合(日本赤十字社推奨):
- 片方の手で乳児の顎を持ち、頭と顎を保護しながら、頭を下げて背中の真ん中を手のひらの下半分(首相部)で数回強く叩く(背部叩打法)。
- 異物が除去できない場合は、胸骨圧迫を行う(指2本で両乳頭を結ぶ線の少し足側の胸骨の下半分を圧迫する)。
- 反応がなくなった場合は、直ちに胸骨圧迫から心肺蘇生を開始する。
- 救助者が一人の場合は、異物除去を優先し、その後119番通報を行う。
- 幼児の場合:
- 体を大腿部で支え、頭をなるべく下に向ける。
- 肩甲骨と肩甲骨の中間を手のひらの下半分で数回強く叩く(背部叩打法)。
- 腹部に腕を回し、一方の手で握りこぶしを作り、親指側を子どものへそより少し上に当てる。そのまま上の方に圧迫するように突き上げる(腹部突き上げ法)。
- 腹部突き上げ法を行った場合は、腹部の内臓を痛めている可能性があるため、救急隊にその旨を伝える。
4. 事故からの学びと献立への反映
実際の事故事例から得られる教訓と、それを日々の献立作成にどのように活かすべきかについて考えます。
- 乳児期の事故が多い傾向:
- 特に0歳児の事故が多く、離乳食の提供には細心の注意が必要です。
- 離乳食の個人差も大きいため、個々の子どもの発達段階に応じた配慮が求められます。
- フルーツなど、無理に提供する必要のない食材は、リスクが高いと判断される場合は献立から外すことも検討すべきです。
- 加熱の重要性:
- すりおろしたりんごによる事故事例から、完了期まではりんごや梨などの果物は加熱して提供するべきであるという学びが得られます。
- 柿については、完了期まではりんごで代用するなど、同様の加熱調理の原則を適用することが推奨されます。
- 食育と安全のバランス:
- 「自分で咀嚼することこそが食育」という考え方もあるが、子どもの安全を最優先とし、誤嚥リスクの高い食品の提供を避ける、または安全な調理法を徹底することが重要です。
10問クイズ
- 2024年5月に保育園で発生したりんごによる誤嚥事故の具体的な状況を説明してください。
- 「教育・保育施設における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」では、丸いものの危険な大きさについてどのように定めていますか?
- ミニトマトを保育園で提供する際の推奨されるカット方法と、現在の運用における推奨事項を述べてください。
- 節分で豆を使用する際の誤嚥リスクと、その対策について具体的に説明してください。
- すりおろしりんごが誤嚥のリスクを高める原因として、どのような可能性が考えられますか?
- 鶏ひき肉のそぼろを保育園で提供する際に、誤嚥を防ぐための調理の工夫を2つ挙げてください。
- ご飯やパン類といった、粘着性が高く唾液を吸収しやすい食材について、提供時にどのような配慮が必要ですか?
- 完了期までのりんごや柿の提供について、ガイドラインではどのような調理方法が推奨されていますか?
- 家庭からのお弁当における誤嚥防止対策として、保育園は保護者に対しどのような働きかけをすべきですか?
- 乳児が異物を誤嚥した場合の初期対応として、日本赤十字社が推奨する背部叩打法の次に取るべき行動は何ですか?
クイズの答え
- 2024年5月、7ヶ月の女の子がすりおろした生のりんごを食べた後に亡くなり、8ヶ月の男の子が泣いて息を吸った瞬間にりんごが気道を塞ぎ意識不明の重体となった事例が報告されています。これは、保育園が国のガイドラインに沿った離乳食の提供をしていなかったという指摘もありました。
- 「教育・保育施設における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」では、丸いものは直径3.5cm以下、丸くないものは直径3.8cm以下のものが危険とされています。ただし、1cm程度の小さなものでも誤嚥のリスクがあることが指摘されています。
- ミニトマトを保育園で提供する際は、必ず4等分以下にカットすることが推奨されています。しかし、最近の事故事例を踏まえ、ミニトマトの使用を中止し、大きなカットトマトに代替することがより安全であるとされています。
- 節分での豆は、乾燥していてバラバラになりやすく、子どもが誤って口にするリスクがあります。対策として、豆を使用しない、または袋ごと投げる、布製の疑似豆を使用するなどの工夫が推奨されます。
- すりおろしりんごが誤嚥のリスクを高める原因として、すりおろしても塊が残る可能性、とろみがなく水分と繊維が分離して繊維が塊になる可能性が考えられます。水分だけが先に口に入り、残った繊維が塊となって気道を塞ぐことがあります。
- 鶏ひき肉のそぼろの誤嚥を防ぐための調理の工夫は2つあります。一つは、豚ひき肉と鶏ひき肉を半々に混ぜて使用すること。もう一つは、片栗粉などでとろみをつけて、そぼろ全体にまとまりを持たせることです。
- ご飯やパン類、ふかし芋、焼き芋、カステラなどは、粘着性が高く唾液を吸収しやすいため、喉に詰まりやすいリスクがあります。提供時には、水分を十分に与えて喉を潤してから食べさせること、そして一度に口に詰め込みすぎないよう注意することが必要です。
- 完了期までのりんごや柿の提供については、加熱して提供することがガイドラインで推奨されています。また、柿に関しては、完了期まではりんごで代用することが推奨されています。
- 家庭からのお弁当における誤嚥防止対策として、保育園は保護者に対し、プチトマトやカップゼリー、ぶどうなど、保育園で使用していない誤嚥リスクの高い食品の使用を避けるよう呼びかけるべきです。お弁当は子どものテンションが上がりやすく、普段の食事以上に注意が必要であることを伝えます。
- 乳児が異物を誤嚥した場合の初期対応として、日本赤十字社が推奨する背部叩打法で異物が除去できなかった場合、次に取るべき行動は「胸骨圧迫」です。指2本を使い、両乳頭を結ぶ線の少し足側の胸骨の下半分を素早く反復して圧迫します。
用語集
- 誤嚥(ごえん): 食べ物や飲み物が誤って気管に入ってしまうこと。窒息のリスクを高める。
- 窒息(ちっそく): 気道が塞がれて呼吸ができなくなり、酸素不足に陥ること。重篤な状態に陥る可能性がある。
- 「教育・保育施設における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」: 保育園や幼稚園などの教育・保育施設において、子どもの事故を未然に防ぎ、事故発生時に適切に対応するための指針を定めた国の文書。
- 栄養士(えいようし): 食事の献立作成、栄養管理、食育指導などを行う専門職。保育園では子どもの成長に合わせた安全な食事提供に責任を持つ。
- 保育士(ほいくし): 子どもの保育を行う専門職。食事の介助や子どもの様子を観察し、誤嚥のリスクを早期に発見する役割を担う。
- 離乳食(りにゅうしょく): 母乳やミルク以外の食物を徐々に与え、固形食に慣れさせていく食事。子どもの発達段階に合わせた調理と提供が重要。
- 完了期(かんりょうき): 離乳食の最終段階で、ほとんどの栄養を食事から摂取するようになる時期。咀嚼力や嚥下機能が発達してくるが、まだ誤嚥のリスクは残る。
- 背部叩打法(はいぶこうだほう): 誤嚥時に背中を叩いて異物を吐き出させる方法。乳児と幼児で叩く位置や強さに違いがある。
- 胸骨圧迫(きょうこつあっぱく): 誤嚥時に胸骨を圧迫して異物を吐き出させる方法。特に乳児の異物除去に用いられる。
- 腹部突き上げ法(ふくぶつきあげほう): 誤嚥時に腹部を突き上げて異物を吐き出させる方法。幼児や成人に対して用いられることが多い。
- 首相部(しゅしょうぶ): 手のひらの付け根の、小指側の盛り上がった部分。背部叩打法などで使用する手の部位。
- 喉頭(こうとう): 喉仏のあたりにある器官で、気管の入り口に位置する。
- 嚥下(えんげ): 食べ物や飲み物を飲み込むこと。
- 咀嚼(そしゃく): 食べ物を噛み砕くこと。
- とろみ: 片栗粉などで液体に粘度をつけること。食品のまとまりを良くし、飲み込みやすくする効果がある。
- 消費庁(しょうひしゃちょう): 消費者の安全を守るための政策を行う日本の行政機関。食品の危険性に関する注意喚起なども行う。
- 献立(こんだて): 食事のメニュー計画。保育園では子どもの栄養と安全を考慮して作成される。
- マニュアル: 特定の作業や手順を定めた手引書。緊急時の対応や調理手順などを標準化するために用いられる。
- 食育(しょくいく): 食に関する知識と選択能力を育み、健全な食生活を実践できる人間を育てること。
よくある質問 (FAQ)
Q1. 保育園での食事提供において、なぜ誤嚥事故防止が重要視されているのですか?
保育園では、乳幼児が食事中に窒息するなどの誤嚥事故が発生するリスクがあるため、その防止が非常に重要視されています。2024年5月には、すりおろした生のリンゴを食べた生後7ヶ月の女の子が亡くなる事故や、8ヶ月の男の子が意識不明の重体となる事故が発生しました。これらの事故の背景には、保育園が国のガイドラインに沿った離乳食の提供ができていなかったという指摘もあり、栄養士や保育士がガイドラインを正確に理解し、実践することが強く求められています。特に乳幼児は摂食機能が未発達であり、個人差も大きいため、徹底した安全管理が必要です。
Q2. 誤嚥リスクの高い食品にはどのようなものがありますか?また、その危険性は何ですか?
誤嚥リスクの高い食品には、以下のような特徴を持つものがあります。
- 弾力があるもの、滑らかな球状のもの: 噛み切れずにそのまま丸ごと飲み込んでしまう危険があります。(例:うずらの卵、ミニトマト、ブドウ、白玉団子、餅、こんにゃく)
- 粘着性が高いもの: 喉にへばりつきやすく、窒息の原因となることがあります。(例:餅、白玉団子、ご飯、パン類、ふかし芋、焼き芋、カステラ)
- 硬いもの: 噛み砕くのが難しく、気道に詰まりやすいです。(例:乾いたナッツ、豆類(節分の豆など)、イカ)
- 水分が少なく口の中でバラバラになりやすいもの、唾液を吸収するもの: 口の中でまとまりにくく、むせやすいです。(例:鶏ひき肉のそぼろ、茹で卵、海苔)
- すりおろしても塊が残るもの: すりおろしリンゴのように、液体と固形物が分離し、固形物が塊となって詰まる可能性があります。
これらの食品は、大きさ、形状、食感などによって誤嚥リスクが高まるため、調理方法や提供方法に特別な配慮が必要です。
Q3. 誤嚥事故防止のための調理・切り方にはどのような工夫が必要ですか?
誤嚥事故防止のためには、以下の調理・切り方の工夫が挙げられます。
- 丸いもの・小さいものは細かく切る:ミニトマト、ブドウ、さくらんぼは、原則として保育園では提供しないか、4等分以下にカットする。可能であれば、他の代替品(大玉トマトなど)を使用する。
- うずらの卵も原則として提供しない。
- 弾力のある食品は形状を変える・小さく切る:糸こんにゃくやしらたきは1cmに切る。
- ソーセージは縦半分に切って使用する。
- きのこ類(えのき、しめじ、舞茸)は1cmに切る。
- エリンギは繊維に逆らって1cmに切る。
- わかめは細かく切る。
- 粘着性の高い食品はとろみをつける・混ぜる:鶏ひき肉のそぼろには片栗粉でとろみをつけるか、豚ひき肉と半々に混ぜて使用する。
- 茹で卵は細かくして他のものと混ぜて使用する。
- 煮魚は柔らかくなるまでしっかり煮込む。
- 水分が少なく喉に詰まりやすいものは水分を補う・とろみをつける:ご飯やパン類、ふかし芋、カステラなどは、水分と一緒に提供し、詰め込みすぎないよう注意する。
- 加熱による調理:リンゴや梨は完了期までは加熱して提供する。
- 柿は完了期まではリンゴで代用する。
- 海苔の工夫:おにぎりの焼き海苔は使わず、刻み海苔を使用する。
これらの工夫は、子供の咀嚼能力や嚥下能力に合わせて調整することが重要です。
Q4. 離乳食期のフルーツの提供について、注意すべき点は何ですか?
離乳食期は、子供の摂食機能が発達段階であり、個人差も非常に大きいため、フルーツの提供には特に慎重な配慮が必要です。
- 事故が多いフルーツ: リンゴによる誤嚥事故が多く報告されています。すりおろしたものでも、とろみがなく水分が分離することで塊が残り、気道を塞ぐ可能性があります。
- 加熱して提供する: リンゴや梨は、完了期までは必ず加熱して提供するようにします。
- 代替品の使用: 柿は、完了期まではリンゴで代用することが推奨されています。
- 無理な提供は控える: 離乳食期は、無理に様々な種類のフルーツを提供する必要はありません。リスクの高いフルーツは提供しないか、バナナなど比較的安全なものに限定することも検討すべきです。安全性を最優先し、子供の成長段階に合わせて慎重に判断することが大切です。
Q5. 保育園だけでなく、家庭でも誤嚥防止のために保護者ができることは何ですか?
誤嚥防止は、保育園と家庭が連携して取り組むべき重要な課題です。保護者が家庭でできることは以下の通りです。
- 保育園と情報共有する: 保育園で誤嚥リスクのある食材(ミニトマト、カップゼリー、ブドウなど)を使用していないことや、配慮している調理法などを家庭にも伝え、共通認識を持つことが重要です。
- 遠足や弁当の日には特に注意: 子供は普段と違う環境やイベントでテンションが上がりがちで、誤嚥のリスクが高まります。家庭から弁当を持参する際は、保育園で禁止されている食材や形状のものを避けるよう心がけましょう。
- 誤嚥リスクのある食材を避ける: プチトマト、カップゼリー、ブドウ、乾いた豆類などは、家庭でも提供を控えるか、小さく切るなどの加工を徹底しましょう。
- 子供の食べる様子をよく観察する: 咀嚼や嚥下の様子をよく観察し、無理なく食べられているか確認しましょう。
- 万が一の際の対応を学ぶ: 誤嚥事故が発生した場合の応急処置(背部叩打法や腹部突き上げ法など)について、乳幼児や幼児向けの方法を事前に学び、いざという時に対応できるように準備しておくことが重要です。
Q6. 保育園における誤嚥事故防止のためのマニュアルやガイドラインの重要性は何ですか?
誤嚥事故防止のためには、保育園内での統一されたマニュアルやガイドラインの整備と周知が不可欠です。
- 統一された対応: マニュアルがあることで、全ての職員が同じ認識を持ち、一貫した調理方法、提供方法、および緊急時の対応を行うことができます。
- 知識の共有: 栄養士だけでなく、実際に食事を提供する保育士もガイドラインの内容を十分に理解し、共有することが重要です。園長先生など管理職が忙しい場合もあるため、給食室から積極的に働きかける必要があります。
- 定期的な確認と更新: ガイドラインは一度作成したら終わりではなく、社会情勢や事故の事例、最新の研究結果などを踏まえて定期的に見直し、更新していく必要があります。
- 緊急時の対応訓練: 事故発生時の対応マニュアル(異物除去の方法、心肺蘇生など)を整備し、職員全員で定期的に訓練を行うことで、迅速かつ適切な行動が可能になります。
- 地域差への対応: 自治体によっては統一されたマニュアルが送られてくる場合とそうでない場合があるため、保育園自身が主体的に情報収集を行い、マニュアルを作成・整備することが求められます。
Q7. 鶏ひき肉のそぼろのように、一見安全そうに見える食品にも誤嚥リスクがあるのはなぜですか?どのように対処すべきですか?
鶏ひき肉のそぼろは、一般的には細かく調理されているため安全だと考えられがちですが、水分が少なく口の中でバラバラになりやすいため、誤嚥のリスクがあります。口の中で水分だけが先に流れ込み、繊維質の塊が残って気道を塞ぐ可能性があります。
対処法としては、ガイドラインで推奨されているように以下のいずれかの方法を取ることが有効です。
- 片栗粉などでとろみをつける: そぼろ全体にとろみをつけることで、口の中でまとまりやすくなり、むせにくくなります。ただし、とろみの濃度は実際に調理しながら、まとまり具合を確認して調整することが重要です。
- 豚ひき肉などと混ぜて使用する: 鶏ひき肉と豚ひき肉を半々に混ぜることで、豚肉の脂肪分が加わり、口の中でまとまりやすくなります。
これらの工夫により、バラけやすさを軽減し、安全に提供できるようにすることが求められます。
Q8. 誤嚥事故が発生した場合の応急処置について、乳幼児と幼児ではどのような違いがありますか?
誤嚥事故が発生した場合の応急処置は、年齢(乳児か幼児か)によって方法が異なります。
乳児(1歳未満)の場合:
- 片手で乳児の顎を持ち、頭と顎を保護しながら、頭を下げてうつ伏せにする。
- もう一方の手のひらの付け根(手掌部)で、肩甲骨と肩甲骨の間を数回(5回程度)強く叩く(背部叩打法)。
- これで異物が除去できない場合は、胸骨圧迫を行う(2本の指で乳首を結ぶ線の少し足側の胸骨下半分を圧迫する)。
- 反応がなくなった場合は、直ちに心肺蘇生を開始する。救助者が一人の場合は、異物除去を優先し、その後119番通報する。
幼児(1歳以上)の場合:
- 体を太ももで支え、頭をなるべく下に向ける。
- 肩甲骨と肩甲骨の間を手のひらの下半分で数回(5回程度)強く叩く(背部叩打法)。
- これで異物が除去できない場合は、腹部突き上げ法(ハイムリック法)を行う。
- 子供の背後から腕を回し、片方の手で握り拳を作り、親指側を子供のへそより少し上に当てる。
- もう一方の手で握り拳を握り、素早く上方に突き上げるように圧迫する。
- 腹部突き上げ法を行った場合は、内臓を傷めている可能性があるので、必ず救急隊にその旨を伝える必要があります。
これらの方法は、いざという時に迅速に実施できるよう、日頃から訓練を行い、手順を把握しておくことが非常に重要です。